混沌、狂気、奇異。デビュー以来、従来の映画作法や教則を打ち破り、数々の気迫溢れる作品を世に送り出してきた巨匠ヴェルナー・ヘルツォーク。ドキュメンタリー作品以外では10年ぶりとなる待望の新作は、渾身の力を込めて丁寧に創り上げた一大叙事詩として完成を迎えた。また本作は実話を基に描かれており、ヴェネチア国際映画祭でも“新しいヘルツォーク”として喝采を浴びたことも記憶に新しい。
1932年、ナチス台頭下のベルリン。ヴァリエテ界に彗星のごとく現れた二人の男。ヒトラーの千里眼として頭角を現したハヌッセンと、現代のサムソンとなるべく命を受けたユダヤ人鍛冶屋の心優しい青年ジシェ。この二人の“無敵の男”は導かれるように出会い、時代の流れに翻弄され、歴史の大きな渦に巻き込まれていく…
 二つの世界大戦でゆれる時代、ヒトラーと同じ年に同じオーストリアに生まれ、その千里眼でヒトラーの政権獲得を予言し、地位や名声をほしいままにしたハヌッセンは実在の人物。巨大な歴史の流れに翻弄される彼の人生を描くことにより、ヒトラーの狂気によってもたらされたヨーロッパの悲劇までも浮き彫りにした。
このハヌッセン役には、ヘルツォーク監督が絶大な信頼を寄せるティム・ロスを抜擢。他の主要キャストについては、リアリティを追求すべく、敢えて役者としてのキャリアが全くない二人を抜擢した。ジシェ役には、重量挙げの様々な“Strongman”コンテストに出場し、その他の競技でも大会記録を打ち立てた屈強な男、ヨウコ・アホラ。プロ・ピアニストのアンナ・ゴウラリに対しては「あなたから“ノー”の返事は聞きたくない」という熱烈なオファーで説き伏せた。そして音楽に、ハリウッドの第一線で活躍するハンス・ジマーを起用。その壮大なスコアは作品に深みを与え、全編を盛り上げている。

偽らなければ生きられない男と、現代のサムソンとなるべき使命を受けた男…
“無敵の男”としてセンセーションを巻き起こした彼らの生きざまを描いた真実の物語。