この物語は真実を基に描かれている。
1932年、ポーランド東部の小さな町。インフレ、失業、ストライキ、クーデター未遂、銀行倒産など“不安な時代”の空気が漂う中、鍛冶屋を営むポーランド系ユダヤ人のブレイトバート家。長男・ジシェ(ヨウコ・アホラ)は、家族思いで実直な青年。勉強好きな9歳の弟・ベンジャミンとレストランで食事中、ユダヤ人であることを揶揄されたことに耐えられず、弟をかばうようにして乱闘騒ぎを起こしてしまう。弁償できない彼に、店主はサーカスの賞金稼ぎを薦める。「世界一の力持ち」の男に勝てば賞金を獲得出来るという単純なショー。ジシェは弁償するために嫌々ながら挑戦するもののあっけなく勝利し、その怪力を認められベルリンのヴァリエテ界へスカウトされた。「見世物はユダヤ人にとって悪の行為」と気は進まないものの、慎ましく暮らす家族を支えるため単身ベルリンへ乗り込む。

彼の雇い主はエリク・ヤン・ハヌッセン(ティム・ロス)。彼の野望はヒトラー政権下で重要なポストに就くことだ。“オカルト神秘の館”で夜ごとに繰り広げられる華麗なショー…ハヌッセンによる読心術や催眠術などの“宇宙の予言”で政権を操り、人心までも煽る。それだけではなく、手品、コンサート、そして“シークフリート”という英雄の名を芸名にしたジシェによる“力自慢”。強いものが全てであることを象徴するこの時代。観客の大半を占める映画スターや国家社会党員、屈強な兵隊達は、ジシェの怪力を“無敵”と絶賛した。その一方で、ユダヤ人であるジシェは本当の自分と、英雄“シークフリート”としての自分と葛藤し始める。ジシェの母親と弟が彼の舞台を訪れたある日、彼は自分の素性を明らかにする意思を固める。ステージでユダヤ人であることを告白した彼は、大観客から罵倒されたが、翌日からジシェの舞台は「現代のサムソン」と話題を呼び、大行列が出来るほどの反響を呼ぶことになる。時を同じくして、ハヌッセンもオカルト省への入閣がほぼ決定的となる。
ジシェはハヌッセンの屋敷で同居しているピアニストの女性・マルタ(アンナ・ゴウラリ)に憧れを抱いていた。彼女はまさに夢で見た女性だったからだ。彼の生活の中に、心穏かな時間が訪れるようになる。

ヒトラーの力が大きくなるにつれて、ユダヤ人排斥運動も日ごとに激しさを増していった。彼らの運命は、大きな歴史の流れの渦に巻き込まれてゆく。そして、驚くべき真実が明らかになる・・・
フル・オーケストラでマルタが奏でる「ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第3番ー2楽章」の調べが時代のうねりを予感させる。
各時代ごとに36人のユダヤ人が生まれる
世の苦しみを担わせるべく 神が選んだ“正しき者”
殉教の恩恵が与えられている
そうとは自分で気づかずに 一生を終える者の哀れ
彼らが天に召されると
凍てついた魂を神が1000年間 その御手で温めねばならない
そして やっと花開く
彼らの何人かは 背負った苦しみがあまりに重すぎて
神でさえ 魂を温めてやれない…
ハヌッセンは今も歴史の中で名が語り継がれ、ジシェはユダヤの物語や歌の中に生きている。